物理学教室談話会/第8回 NITEP談話会

Asia/Tokyo
Description

題目:レーザー励起可能な229Th 原子核の極低エネルギー励起準位の研究とその応用
講師:吉見 彰洋 氏(岡山大学 異分野基礎科学研究所 准教授)
日時:2020年1月15日(水) 15:30-18:00
場所:第4講義室(F205)

不安定核も含めて3,000種類以上存在が確認されている原子核の中で、唯一例外的に第一励起状態が eV オーダーという低い元素が 229Th である。この存在が指摘されたのは1970年代であったが、その励起エネルギーがかなり確かに分かってきたのは 2000年代に入ってからであり、現在は 8.3 eV 程度と言われている[1]。この余りに低い励起状態は寿命の長いアイソマー状態となっていると考えられているが、その寿命は未だ確定していない。この励起エネルギーは波長にすると 150 nm で、真空紫外領域のレーザー光でまるで原子のように励起することが可能であることから興味を持たれている。ただし、線幅が未だ確定していないのと、波長の決定精度が徐々に定まってきたのがここ1-2年なので、レーザー励起は未だ実現できていない。原子核の量子状態は原子のそれに比べて外乱を受けにくいため、精密原子時計の原子核版「原子核時計」の実現に向けて多くのグループが研究を進めている。特に原子核遷移は固体中でも安定して利用できるという点が興味深い。 我々の研究室でも5年前から、229Th の第二励起状態(29 keV)にSPring-8の放射光で励起することでアイソマー状態に遷移させて、このアイソマー状態からの脱励起光の分光をするプロジェクトを展開している。最近世界で初めて人工的にアイソマー状態に遷移することに成功し[2]、現在アイソマー分光に着手している。本講演では我々の実験研究及び世界中の動向を紹介する。

[1] B. Seiferle1, Lars von der Wense et al., “Energy of the 229Th nuclear clock transition” Nature 573, 243–246(2019).
[2] T. Masuda, A. Yoshimi et al., “X-ray pumping of the 229Th nuclear clock isomer”, Nature 573, 238–242 (2019)

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