日時:2020年12月17日(木)16:30 - 18:00 タイトル:「サブサイクル近接場による極限時空間分光」 講師:武田 淳 先生 (横浜国立大学大学院 工学研究院) 開講方式:Zoom 概要: 現代の情報技術は電子制御の「高速化」と「微細化」の推進により発展してき た。しかしながら、従来技術の延長には限界があり、高度情報化社会を支える電 子制御技術の発展に陰りが見えはじめている。近年、電子制御を飛躍的に高速化 させる次世代の手法として、超短パルスレーザーのキャリア・エンベロープ位相 (光電場の位相; CEP)を積極的に利用することが提案され、電場の振動周期よ りもさらに短い究極の時間スケール(サブサイクル)で電子を操り、アト秒領域 での電子制御が達成された(Nature 493, 70, 2013; Nature 475, 78, 2011 他)。これらは、例えばペタフロップスで動作するコンピュ−タ(Nat. Phys. 12, 741, 2016)など、次世代の超高速ナノエレクトロニクス開発に対する重要 な要素技術となっている。我々も、Cr添加サファイアナノ薄膜において,多光子 過程に伴う世界最高速の多重ペタヘルツ電子分極(667–383アト秒)を時間分解 計測した[1]。しかしながら、これらの超高速電子制御手法は、アト秒パルスに よる操作や精密に造り込んだナノ構造体によって行われており、現実の多様な物 質への適用は難しい。また、光の回折限界のため空間分解能は〜100 nmに限ら れ、物質固有の物性を左右している〜1 nmスケールの空間構造の多様性は平均値 に埋もれて観測できない。一方、超短パルスレーザーにより発生させたテラヘル ツ(THz)波は、容易に高強度かつ位相安定な単一サイクルパルスを形成し、非 摂動論的な電子操作を可能とする[2,3]。そこで、我々は、CEP制御したTHz波と 走査トンネル顕微鏡(STM)を組み合わせ、電子をナノ空間で操作できる位相制 御THz-STMを開発した[4]。また、広帯域THz位相シフタをTHz-STMに組み込み、任 意のTHz近接場を創り出し所望の方向に電子を流す処方箋を構築するとともに、 ダブルパルスTHz近接場によるサブサイクル分光を実行することにより、探針・ サンプル間に任意のサブピコ秒電流バーストをも生成できることを示した[5]。 これらの成果は、THz-STMが単に電子の高速操作に止まらず、極限的時空間で多 様な物性を操作できる有力なナノ計測技術になり得ることを示している。本講演 では、THz-STMのこれまでの進展を概観するとともに、その将来展望についても 議論したい。 1) H. Mashiko et al., Nat. Commun. 9, 1468 (2018). 2) Y. Minami et al., Phys. Rev. Lett. 124, 147401 (2020). 3) X. Li et al., Phys. Rev. B 100, 115145 (2019). 4) K. Yoshioka et al., Nat. Photon. 10, 762 (2016). 5) K. Yoshioka et al., Nano Lett. 18, 5198 (2018). 多数のご参加を頂きますよう,よろしくお願いいたします. 参加を希望されるかたは、杉崎 満(mitsuru_at_osaka-cu.ac.jp)までご連絡ください.