NITEP談話会

物理・第31回NITEP談話会

Asia/Tokyo
Description

大阪公立大学 物理・NITEP談話会のご案内

『時間の向きの反転に対する対称性の破れ』

講師:Dr. Tomio Petrosky

 (テキサス大学オースチン校複雑量子系研究センター)

日時:4月14日(金)16:30〜18:00

場所:大阪公立大学杉本キャンパス 理学部E棟 第10講義室 (E211)

 

要旨:熱力学第二法則に関する時間の向きの反転に対する対称性の破れに関しての力学的根拠について、研究の歴史を交えながら平易な言葉で説明する。この問題は「時間の矢」の問題とも言われている。ここで述べる内容は、講演者がBrusselsのSolvay研究所とテキサス大学でIlya Prigogine教授の指導のもとで明らかにしてきた内容の紹介である。

 我々の世界の圧倒的な出来事では、時間の向きの反転に対してその対称性が破れている。ところが物理学の基本法則と呼ばれているものは全て時間の反転に対して対称性にできている。果たして、時間の矢の存在はアインシュタインの言うように幻想であるのか。あるいは、ボルツマンの言うように、時間の対称性の破れは、人間の情報処理能力の欠如によるものであり、この世界の性質ではないのか。この講義で、そうではなくて、時間の矢の存在は物理学の基本法則と数学的に矛盾していないことを示す。

我々の議論の出発点は古典および量子力学の基本法則である確率分布関数および密度行列の従うLiouville–von Neumann方程式である。そして、我々の研究成果は、熱力学的極限下では、ヒルベルト空間を拡張して得られる関数空間の中で、その時間発展生成の演算子(Liouvillian)が数学と矛盾することなく複素固有値を持てることを示す形でなされた。その結果、時間の対称性の破れは物理学の基本法則と矛盾しないことになる。

さらに、Boltzmann方程式やFokker-Planck方程式などの時間の対称性を破る運動論的方程式の衝突演算子の固有値が、実は力学の基本演算子であるLiouvillianの非ヒルベルト空間内での複素固有値と一致することを示した。また、これら衝突演算子の固有値から得られる輸送係数は、Liouvillianの複素固有値の虚部から得られることも示した。

その際の要点は力学の基本方程式の解の中に振動数分母がゼロになり得る共鳴特異性が現れる状況があることが本質的である。これは、カオス力学のポアンカレの非可積分性に関する小さい分母の出現(small denominatorの問題)と同根である。すなわち、少数自由度系では同じ共鳴特異性がカオスを生みだし、熱力学極限という多自由度系では時間の向きの対称性の破れを生みだすことを明らかにした。(講義は対面で日本語で行われます)

 問合せ:大阪公立大学理学物理 田中智(stanaka@omu.ac.jp)